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ゴニン デ イッシュ





        互いの読みを持ち寄ることで、
        歌の味わいが変わっていく(かも)。
        毎月ある短歌1首について5人が鑑賞文を書く、
        「山羊の木」の期間限定企画です。
「ゴニン デ イッシュ」第5回(2010年3月)
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    ゴニンデイッシュ第5回


    今月の5人
    今橋愛――わたしも冬の星を知っている。
    島なおみ――言葉の意味の連関を少しずつずらしてゆく喩法
    高柳克弘――ともに傷を負う存在としての共鳴
    山田航――つまらないものが、きらきら輝きを放ち始める
    吉川宏志――引き算のかたちで見えてくる「私」



    第5回の短歌は、笹井宏之「公務」(「歌壇」2009年2月号)から。笹井さんが亡くなってもう1年ですが、まだまだ語り合うことは残されています。
    遺歌集も切に待たれますね。

    今回お願いしたのは、[sai]、セクシャルイーティング、その他いろいろでお世話になっている大好きな今橋愛さん、短歌の世界に刺激的な話題を提供し続けている、短歌結社「弦」の島なおみさん、俳句結社「鷹」の編集長、昨年第一句集『未踏』を上梓された高柳克弘さん、昨年短歌研究評論賞と角川短歌賞をダブル受賞された山田航さん(次号から「pool」正式加入です!)、そして、美しい歌と誠実な論考で短歌界を牽引する吉川宏志さん(50音順)です。



    「ゴニン デ イッシュ」とは
    | 第5回(公務) | 15:19 | - | - | - | - |
    【第5回(公務)】今橋愛
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      ゴニンデイッシュ5今橋


      公務員という言葉の意味がわからないので知人にあれこれ聞いた。
      そうすると、現在のこの国における公務員の過酷な労働状況のことなどを知った。
      わたしはそれをはっきりとは思い浮かべられなかった。そして、ああそうかと思った。
      この作者も多分一緒だ。あるいは、もっとぼんやりとしか結べないんじゃないのかなあって。

      だから、このうたの公務\公務員は、例えば庭に生えているはっぱの一枚というくらい。それをむしって、おもしろがってふふふ、と笑っているそれであって、先ほどの公務員という意味やメッセージからは、かなり遠いそれと感じる。
      そういうところからは大きく隔てられた場所が、この人の世界だったのでしょう。

      むしろ、真冬の星の匂い。
      この言葉にはこの人の実感がある気のする。
      この人は佐賀の有田というところの人です。陶器の町。
      この人は公務員というはっぱを ぴゃっとむしり、それをくしゃっとすると、そこからうつくしい冬の気配や空気とともに星の匂いがするのだと言う。いい詩だなあと思う。

      わたしも冬の星を知っている。この人と同じ陶器の町の冬。
      車をとめて空を見上げると、星が、目にすごく近くてきれいだったのを思い出せる。
      空気は冴えている。耳には何の音もしない。もししていても聞こえていない。冴えている、どころではない。冴えきっている。そう、冴えきっていた─町はちがっても、陶器の町は。どこか似ている気のする。この人も よく似た冬の星を見ていたんだろうなと想像する。ずっと都会で暮らすひとには、つくれないうただなあと思ったりもする。

      このうたを読み終えると、こころのどこかが浄化されているような気がする。
      とうめいなあめ玉を、すうっと、なめ終えている感じ。
      わたしならば、わたしの知る陶器の町の、ある冬を この一行で、もう体感しなおしている感じ。

      歌壇2月号。ひとつ前にはこんなうたがある。
       
      はるまきがみんなほどけてゆく夜にわたしは法律を守ります 

      下句。だいたいの人は、こんなことは言わないらしい。だけど。なんだかなあ。この人の「法律を守ります」は「ほんとに」守るような気がしてくる。なんか。なんでか。



      今橋愛(いまはし・あい)
      1976年大阪市生まれ。
      2002年北溟短歌賞受賞。歌集「O脚の膝」。
      同人誌〔sai〕、未来短歌会に所属。ホームページhttp://www.aaaperson.jp/


      【第5回】他の4人を読む
      島なおみ――言葉の意味の連関を少しずつずらしてゆく喩法
      高柳克弘――ともに傷を負う存在としての共鳴
      山田航――つまらないものが、きらきら輝きを放ち始める
      吉川宏志――引き算のかたちで見えてくる「私」

      「ゴニン デ イッシュ」とは
      | 第5回(公務) | 07:42 | - | - | - | - |
      【第5回(公務)】島なおみ
      0
        ゴニンデイッシュ島


        畑ではたわわに《公務員》が実っている。もぎ取ってジューサーにかける。搾り取ることができたのは、太陽の匂いあふれる果汁――ではなく、星の匂いのする《公務》であった。
        冬に瞬く星の匂いは陰(ネガ)のイメージを帯びる。収穫と圧搾の作業も夜ひそやかに行われているのだろう。
        すでに《公務員》の姿はない。あとに残るのは搾り取られた《公務》だけだ。ほとんど無臭の冷えた星の匂いが動く。

                †

        「とれたて」「しぼりとる」は平仮名表記。舌足らずな少年の口調のようでもある。だが言葉の余分な意味の枝葉が刈り取られ、極端に抽象化されている。だから発話主体である作者自身の息づかいや体温は1首の中では薄まっている。
        また、「人が去って星(のようなもの)が残る」というタルホ的世界観は、どこか懐かしく甘美だ。この甘さ懐かしさは短歌形式と親和性が高い。甘さに流れ過ぎた分「公務」などという固い言葉で踏みとどまっている。

        格助詞「の」の繰り返しが韻律にバランスを与えている。特に下句の〈「名詞(2音)」+「の」+「名詞(3音)」+「の」+「名詞(3音)」+「の」+「名詞(3音)」=体言止め〉から生じるリズムは、一読、超現実的なテーマを音の安定感で支えてもいる。
        「とれたて」「しぼりとる(果汁などを)」/「しぼりとる(血税などを)」「公務員」/「公務員」「公務」と、言葉の意味の連関を少しずつずらしてゆく喩法は、イメージの高次元への広がりを感じさせる。
        作者・笹井宏之が語り手としての気配をうまく消したことも、超現実の風景を現前にあり得るべき風景のように提示するのに一役買っている。
        甘い匂いの少年性と、清冽な凄みが共存する。作者の生涯を象徴するような1首と思われた。



        島なおみ(しま・なおみ)
        2007年より、歌の文芸誌「弦 GEN」の企画・編集を担当。
        短歌ブログ http://absolutepitch.typepad.jp/
        地元・富山市で、Epeeの会を運営しています。


        【第5回】他の4人を読む
        今橋愛――わたしも冬の星を知っている。
        高柳克弘――ともに傷を負う存在としての共鳴
        山田航――つまらないものが、きらきら輝きを放ち始める
        吉川宏志――引き算のかたちで見えてくる「私」

        「ゴニン デ イッシュ」とは
        | 第5回(公務) | 07:42 | - | - | - | - |
        【第5回(公務)】高柳克弘
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          ゴニンデイッシュ高柳


          「公務員」とは、新聞の政治経済欄や、就職情報誌などで見かける呼称であり、およそ詩歌にふさわしいは言えない。さらに、「とれたて」「しぼりたる」といった用語も、テレビCMなどで繰り返し使われていることによって、すでに言葉として絶命寸前といってもいい。「とれたて」「しぼりたる」の語が「公務員」にかかっているところは、確かに一つの表現上の工夫ではあるが、ここまではミスマッチによる飄逸さはあるものの、立ち上ってくる詩情は認められない。だが、しぼりとられているものが、「真冬の星の匂いの公務」と言われると、冴え冴えとした冬の季節の実感がふいにまぎれこんでくる。この七七によって、「公務員」に掛かっていた「とれたて」「しぼりたる」の語が、「真冬の星」のみずみずしさの形容ともなり、鼻の奥をつんとさせる澄み切った夜空の「匂い」を伝えてくる。同時に、世俗に置いては、俗悪や怠惰の具現とされる「公務員」が、真冬の星にも似た孤独悲を持つ、一人の人間として捉えなおされることになる。

          この歌は単純な比喩の歌と見るべきではない。「とれたての公務員」を、新人公務員の喩であると解釈したり、「しぼりとる」を労働による搾取だとみなしたりしてしまえば、この歌の味わいが台無しになってしまうだろう。一首を読み終えたとき、言葉の質感が、ふっと変化する、その微細な気息を味わえば足る歌だ。イメージ化すらも拒むところがあるが、仕事帰りに夜空を見上げている、肩をしぼめた背広姿のひとりの男の姿ぐらいは思い浮かべても、この歌の妙味は壊されないだろう。

          散文の洪水の中で窒息寸前の言葉たちを救い出し、蘇生させる救命士のような役割が、詩人としての笹井に招命されているところではないか。

          摂津幸彦の俳句に「物干しに美しき知事垂れてをり」がある。ともに、権威へ向けてアイロニカルな視線を投げかけているという言葉の志向に共通性がある。とはいえ、この句の背後にいる作者摂津がデモーニッシュに哄笑しているのに比して、掲出歌における笹井は、さびしげに微笑んでいるようだ。その相違が、俳句には存在しない七七に由来しているところが、俳句と短歌との本質的相違をも物語っているようで、興味深い。笹井の歌における、「公務員」という言葉の蘇生はそのまま、「公務員」というシステム化された存在そのものへの寄り添いにつながっていく。笹井の歌はしばしば「優しさ」と評されるが、単なる同情や共感による陳腐な「優しさ」などではない。ともに傷を負う存在としての共鳴が、笹井の歌にある切実さを与えている。それを現代性と呼んでもさしつかえないだろう。



          睫克弘(たかやなぎ・かつひろ)
          俳人。一九八〇年、静岡県浜松市生まれ。俳句結社「鷹」編集長。句集に『未踏』(ふらんす堂)、著書に『凛然たる青春』(富士見書房)、『芭蕉の一句』(ふらんす堂)。ブログ http://sun.ap.teacup.com/katsuhiro/

          【第5回】他の4人を読む
          今橋愛――わたしも冬の星を知っている。
          島なおみ――言葉の意味の連関を少しずつずらしてゆく喩法
          山田航――つまらないものが、きらきら輝きを放ち始める
          吉川宏志――引き算のかたちで見えてくる「私」

          「ゴニン デ イッシュ」とは
          | 第5回(公務) | 07:41 | - | - | - | - |
          【第5回(公務)】山田航
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            ゴニンデイッシュ山田


             笹井宏之の短歌は非常に純度の高い詩的世界を形成しているが、その源泉は実は取り合わせの妙にある。いかにも詩的な言葉と、そうではない言葉を並列させることで逆に詩的純度を高めるという技巧が多用されている。

              表面に〈さとなか歯科〉と刻まれて水星軌道を漂うやかん

             この歌が典型ともいえるだろう。「水星軌道」が詩語であり、「〈さとなか歯科〉」や「やかん」は非‐詩語である。笹井の用いる非‐詩語にはいくつか特徴があり、日常的なものであること、事務的なものであること、純和風なものであることが挙げられる。

             「公務員」「公務」というのはこの非‐詩語である。この言葉は一般に、身近ではあるもののお堅く事務的なイメージをまとっていると解釈できる。それが「とれたて」「しぼりとる」「真冬の星の匂い」といった詩語と組み合わされることでほのかなおかしみが生まれ、詩に奥行きが出る。どこにでもある平凡なもの、つまらないものという属性を抱えたモチーフが、異世界に移し変えられるだけできらきら輝きを放ち始める。そしてその輝きが生まれる一瞬の境界に大きく寄与しているものがほのかな笑いであるというところに笹井式二物衝突の重心があるのだ。

             「公務員」という語からは、色彩的にはくすんだねずみ色のような暗いイメージがある。一方「とれたて」「しぼりとる」からは新鮮な果実のイメージが、「真冬の星」からは降り積もった雪の純白のイメージが立ち現われてくる。そしてそこに生ずるのはグラデーションではなく、ビビッドなイメージのぶつかり合いなのである。笹井の歌は全体としては淡い世界観を形作っているように見えるが、その内部にはモチーフ同士の激しい衝突がある。それは笹井自身の心の内部で繰り返され続けている、他者には決して伝わりようのない衝突なのである。美しいと思うものだけを取捨選択して自分の世界に取り入れることができない。美しいものもつまらないものもみないっしょくたになって思い思いに飛び交いぶつかり合っている世界。それを心に持ち続けることは、尋常ならざる苦痛であったと思う。そしてその苦痛がどうしても外部に伝わらず、ぼやけた淡い世界として表出してしまう。その苦しみが、「真冬の星」の寒々しさと、ルーティンワークのような「公務」とを引き合わせてしまったのだろう。




            山田航(やまだ・わたる)
            1983年生まれ。「かばん」所属。2009年、現代短歌評論賞および角川短歌賞受賞。将来の野望は就職。
            ブログ「トナカイ語研究日誌」http://d.hatena.ne.jp/yamawata/


            【第5回】他の4人を読む
            今橋愛――わたしも冬の星を知っている。
            島なおみ――言葉の意味の連関を少しずつずらしてゆく喩法
            高柳克弘――ともに傷を負う存在としての共鳴
            吉川宏志――引き算のかたちで見えてくる「私」

            「ゴニン デ イッシュ」とは
            | 第5回(公務) | 07:23 | - | - | - | - |
            【第5回(公務)】吉川宏志
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              ゴニンデイッシュ吉川


               「とれたての」「しぼりとる」という表現から、「公務員」をレモンのような果実にたとえていることがわかる。みずみずしいものが、圧力を加えられているイメージである。誰がしぼりとっているのかはわからない。作者である〈私〉がしぼりとっていると取れないこともないが、歌の内容からすると、力をもった別の存在が主語であるような気がする(神のようなものを想定してもいい)。

               「真冬の星の匂いの公務」も難解だが、秩序を守る仕事の冷たい美しさを表現しているのだと受け取っておきたい。緻密で正確な印象がある。

               公務員から、「公務」を取ってしまえば、搾りかすのような「私」の領域が残る。引き算のかたちで見えてくる「私」を表現しようとした歌なのではないか。たとえば、燦然としていた官僚が、役職を失うと、みすぼらしい存在に変わってしまうことがある。公的な立場を奪われると、人間は非常に脆弱なものになってしまう。「公務」というものが、実は人間を生かしているのだともいえる。そのような公私の関係に、作者は関心を抱いていたのではなかろうか。

               ここまでは読める。だが、歌の評価となるとまた別である。

               さまざまなイメージがパズルのように組み合わされている感じで、一首としての迫力には乏しいと、私は思う。さまざまな読みは出るだろう。ただ、謎解きをするだけで終わってしまう歌なのではないか。「公務員」や「真冬の星」といった言葉が、記号的に用いられていて、表層的な感じがするのである。

               もちろんすべての言葉は〈記号〉なのだけれど、優れた歌では、どこか記号以上のなまなましい感触を、言葉が帯びることはあるわけである。けれどもこの歌はそこまでは達していない気がする。

               「公務」七首の中では、「自衛隊員のひとりが海であることをあなたにささやいて去る」を、私は秀歌だと感じる。「じえいたい/いんのひとりが/うみである/ことをあなたに/ささやいてさる」という句またがりのリズムが、おのずから不穏なものや危ういものを読者に伝えてくる。歌のなまなましさはこうして生まれる。



              吉川宏志(よしかわ・ひろし)
              1969年、宮崎県生まれ。「塔」選者。歌集に『青蝉』『西行の肺』など。評論集に『風景と実感』、『対峙と対話』(大辻隆弘との共著)がある。青磁社のHPに、ときどきブログを書いています。
              http://www3.osk.3web.ne.jp/~seijisya/


              【第5回】他の4人を読む
              今橋愛――わたしも冬の星を知っている。
              島なおみ――言葉の意味の連関を少しずつずらしてゆく喩法
              高柳克弘――ともに傷を負う存在としての共鳴
              山田航――つまらないものが、きらきら輝きを放ち始める


              「ゴニン デ イッシュ」とは
              | 第5回(公務) | 07:16 | - | - | - | - |