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ゴニン デ イッシュ





        互いの読みを持ち寄ることで、
        歌の味わいが変わっていく(かも)。
        毎月ある短歌1首について5人が鑑賞文を書く、
        「山羊の木」の期間限定企画です。
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【第5回(公務)】吉川宏志
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    ゴニンデイッシュ吉川


     「とれたての」「しぼりとる」という表現から、「公務員」をレモンのような果実にたとえていることがわかる。みずみずしいものが、圧力を加えられているイメージである。誰がしぼりとっているのかはわからない。作者である〈私〉がしぼりとっていると取れないこともないが、歌の内容からすると、力をもった別の存在が主語であるような気がする(神のようなものを想定してもいい)。

     「真冬の星の匂いの公務」も難解だが、秩序を守る仕事の冷たい美しさを表現しているのだと受け取っておきたい。緻密で正確な印象がある。

     公務員から、「公務」を取ってしまえば、搾りかすのような「私」の領域が残る。引き算のかたちで見えてくる「私」を表現しようとした歌なのではないか。たとえば、燦然としていた官僚が、役職を失うと、みすぼらしい存在に変わってしまうことがある。公的な立場を奪われると、人間は非常に脆弱なものになってしまう。「公務」というものが、実は人間を生かしているのだともいえる。そのような公私の関係に、作者は関心を抱いていたのではなかろうか。

     ここまでは読める。だが、歌の評価となるとまた別である。

     さまざまなイメージがパズルのように組み合わされている感じで、一首としての迫力には乏しいと、私は思う。さまざまな読みは出るだろう。ただ、謎解きをするだけで終わってしまう歌なのではないか。「公務員」や「真冬の星」といった言葉が、記号的に用いられていて、表層的な感じがするのである。

     もちろんすべての言葉は〈記号〉なのだけれど、優れた歌では、どこか記号以上のなまなましい感触を、言葉が帯びることはあるわけである。けれどもこの歌はそこまでは達していない気がする。

     「公務」七首の中では、「自衛隊員のひとりが海であることをあなたにささやいて去る」を、私は秀歌だと感じる。「じえいたい/いんのひとりが/うみである/ことをあなたに/ささやいてさる」という句またがりのリズムが、おのずから不穏なものや危ういものを読者に伝えてくる。歌のなまなましさはこうして生まれる。



    吉川宏志(よしかわ・ひろし)
    1969年、宮崎県生まれ。「塔」選者。歌集に『青蝉』『西行の肺』など。評論集に『風景と実感』、『対峙と対話』(大辻隆弘との共著)がある。青磁社のHPに、ときどきブログを書いています。
    http://www3.osk.3web.ne.jp/~seijisya/


    【第5回】他の4人を読む
    今橋愛――わたしも冬の星を知っている。
    島なおみ――言葉の意味の連関を少しずつずらしてゆく喩法
    高柳克弘――ともに傷を負う存在としての共鳴
    山田航――つまらないものが、きらきら輝きを放ち始める


    「ゴニン デ イッシュ」とは
    | 第5回(公務) | 07:16 | - | - | - | - |