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ゴニン デ イッシュ





        互いの読みを持ち寄ることで、
        歌の味わいが変わっていく(かも)。
        毎月ある短歌1首について5人が鑑賞文を書く、
        「山羊の木」の期間限定企画です。
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【第5回(公務)】山田航
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    ゴニンデイッシュ山田


     笹井宏之の短歌は非常に純度の高い詩的世界を形成しているが、その源泉は実は取り合わせの妙にある。いかにも詩的な言葉と、そうではない言葉を並列させることで逆に詩的純度を高めるという技巧が多用されている。

      表面に〈さとなか歯科〉と刻まれて水星軌道を漂うやかん

     この歌が典型ともいえるだろう。「水星軌道」が詩語であり、「〈さとなか歯科〉」や「やかん」は非‐詩語である。笹井の用いる非‐詩語にはいくつか特徴があり、日常的なものであること、事務的なものであること、純和風なものであることが挙げられる。

     「公務員」「公務」というのはこの非‐詩語である。この言葉は一般に、身近ではあるもののお堅く事務的なイメージをまとっていると解釈できる。それが「とれたて」「しぼりとる」「真冬の星の匂い」といった詩語と組み合わされることでほのかなおかしみが生まれ、詩に奥行きが出る。どこにでもある平凡なもの、つまらないものという属性を抱えたモチーフが、異世界に移し変えられるだけできらきら輝きを放ち始める。そしてその輝きが生まれる一瞬の境界に大きく寄与しているものがほのかな笑いであるというところに笹井式二物衝突の重心があるのだ。

     「公務員」という語からは、色彩的にはくすんだねずみ色のような暗いイメージがある。一方「とれたて」「しぼりとる」からは新鮮な果実のイメージが、「真冬の星」からは降り積もった雪の純白のイメージが立ち現われてくる。そしてそこに生ずるのはグラデーションではなく、ビビッドなイメージのぶつかり合いなのである。笹井の歌は全体としては淡い世界観を形作っているように見えるが、その内部にはモチーフ同士の激しい衝突がある。それは笹井自身の心の内部で繰り返され続けている、他者には決して伝わりようのない衝突なのである。美しいと思うものだけを取捨選択して自分の世界に取り入れることができない。美しいものもつまらないものもみないっしょくたになって思い思いに飛び交いぶつかり合っている世界。それを心に持ち続けることは、尋常ならざる苦痛であったと思う。そしてその苦痛がどうしても外部に伝わらず、ぼやけた淡い世界として表出してしまう。その苦しみが、「真冬の星」の寒々しさと、ルーティンワークのような「公務」とを引き合わせてしまったのだろう。




    山田航(やまだ・わたる)
    1983年生まれ。「かばん」所属。2009年、現代短歌評論賞および角川短歌賞受賞。将来の野望は就職。
    ブログ「トナカイ語研究日誌」http://d.hatena.ne.jp/yamawata/


    【第5回】他の4人を読む
    今橋愛――わたしも冬の星を知っている。
    島なおみ――言葉の意味の連関を少しずつずらしてゆく喩法
    高柳克弘――ともに傷を負う存在としての共鳴
    吉川宏志――引き算のかたちで見えてくる「私」

    「ゴニン デ イッシュ」とは
    | 第5回(公務) | 07:23 | - | - | - | - |