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ゴニン デ イッシュ





        互いの読みを持ち寄ることで、
        歌の味わいが変わっていく(かも)。
        毎月ある短歌1首について5人が鑑賞文を書く、
        「山羊の木」の期間限定企画です。
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【第5回(公務)】島なおみ
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    ゴニンデイッシュ島


    畑ではたわわに《公務員》が実っている。もぎ取ってジューサーにかける。搾り取ることができたのは、太陽の匂いあふれる果汁――ではなく、星の匂いのする《公務》であった。
    冬に瞬く星の匂いは陰(ネガ)のイメージを帯びる。収穫と圧搾の作業も夜ひそやかに行われているのだろう。
    すでに《公務員》の姿はない。あとに残るのは搾り取られた《公務》だけだ。ほとんど無臭の冷えた星の匂いが動く。

            †

    「とれたて」「しぼりとる」は平仮名表記。舌足らずな少年の口調のようでもある。だが言葉の余分な意味の枝葉が刈り取られ、極端に抽象化されている。だから発話主体である作者自身の息づかいや体温は1首の中では薄まっている。
    また、「人が去って星(のようなもの)が残る」というタルホ的世界観は、どこか懐かしく甘美だ。この甘さ懐かしさは短歌形式と親和性が高い。甘さに流れ過ぎた分「公務」などという固い言葉で踏みとどまっている。

    格助詞「の」の繰り返しが韻律にバランスを与えている。特に下句の〈「名詞(2音)」+「の」+「名詞(3音)」+「の」+「名詞(3音)」+「の」+「名詞(3音)」=体言止め〉から生じるリズムは、一読、超現実的なテーマを音の安定感で支えてもいる。
    「とれたて」「しぼりとる(果汁などを)」/「しぼりとる(血税などを)」「公務員」/「公務員」「公務」と、言葉の意味の連関を少しずつずらしてゆく喩法は、イメージの高次元への広がりを感じさせる。
    作者・笹井宏之が語り手としての気配をうまく消したことも、超現実の風景を現前にあり得るべき風景のように提示するのに一役買っている。
    甘い匂いの少年性と、清冽な凄みが共存する。作者の生涯を象徴するような1首と思われた。



    島なおみ(しま・なおみ)
    2007年より、歌の文芸誌「弦 GEN」の企画・編集を担当。
    短歌ブログ http://absolutepitch.typepad.jp/
    地元・富山市で、Epeeの会を運営しています。


    【第5回】他の4人を読む
    今橋愛――わたしも冬の星を知っている。
    高柳克弘――ともに傷を負う存在としての共鳴
    山田航――つまらないものが、きらきら輝きを放ち始める
    吉川宏志――引き算のかたちで見えてくる「私」

    「ゴニン デ イッシュ」とは
    | 第5回(公務) | 07:42 | - | - | - | - |