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ゴニン デ イッシュ





        互いの読みを持ち寄ることで、
        歌の味わいが変わっていく(かも)。
        毎月ある短歌1首について5人が鑑賞文を書く、
        「山羊の木」の期間限定企画です。
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【第6回(逆)】岡本雅哉
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    gonin6okamoto


    穂村弘の作品で、“動作”を詠んだ短歌としては、
    次の一首が思い浮かんだ。

     「自転車のサドルを高く上げるのが夏をむかえる準備のすべて」

    シンプルでありながら、魅力的な情景を詠った傑作だと思う。


    しかし、今回のテーマとなった短歌は、ちょっとキャラ間違えてない?
    そう思うくらい、なんてことのない歌である。

    “携帯電話を変えたあと、電話に出ようと思ったら、
    「通話ボタン」と「終話ボタン」の位置が、
    それまで使っていたものとは左右逆に付いていて、
    そのたび「終話ボタン」を押して電話を切ってしまい、
    あせるあまりボタンの位置を確認することも忘れ、
    何度も何度も相手からの電話を切ってしまった。”


    ……で?

    これはまさか、作者のエッセイでおなじみの、
    “世界音痴な私”アピールですか……?

    あ、そういうの僕、間に合ってるんですよね……。
    こう見えてもけっこう、原田宗典とか好きで、
    もうトホホ体験は食傷気味っていうか、
    やっぱり穂村さんには「シンジケート」みたいな短歌を……。


    いや、ちょっとまてよ。

    携帯電話のボタンって、みんな一緒の位置じゃなかったっけ?

    僕の経験上、機種変更しても、
    「左は通話ボタン」、「右は終話ボタン」、
    それは変わらなかったはず……。
    業界基準で決まってたりするんじゃなかろうか……。


    ―“総務省総合通信基盤局電気通信事業部”に電話して聞いてみました。

    結論から言えば、
    国内で販売されている携帯電話の構造は、やはり。
    「左が通話ボタン」、「右が終話ボタン」、
    という形になっているそうです。

    そうなると、
    「買い換えた携帯電話のボタンが逆」、
    この部分の意味がわからない。


    ……思い出した。

    かつてきいた、作者の人柄についての噂。

    なんでも、せっかくメガネをやめて、
    コンタクトレンズを入れたのにも関わらず、
    “あいだにメガネという壁を挟むことなしに、いきなり世界と向き合うなんて無理だ”、
    なんてよくわからない言い訳をして、
    コンタクトをした目の上から、
    “レンズなしメガネ”をかけていたような男だという。
    なんて、めんどくさい……。

    だからきっとこの短歌は、
    作者のそういう類の感受性が暴走した結果、
    「最新の携帯だから、ボタンが逆になっているくらいの進化はしてるだろう」、
    そう思い込んで逆のボタンを押しまくってしまった、
    そんなところだろう。
    とても、めんどくさい……。


    そう自分を納得させていたところ、
    先日、職場に営業に来た若いサラリーマンが、
    打ち合わせの際、
    傍らにいまをときめくiPhoneを置いた。


    もしや、と思って聞いてみたところ、なんと。

    iPhoneの「通話ボタン」と「終話ボタン」は、
    通常の日本の携帯電話とは逆についているという。
    通話ボタン、間違えなかった?と訊くと、

    「やっぱり最初は切っちゃいましたね……」


    そうか!

    穂村氏はiPhoneに乗り換えたんだ。
    それを遠回しに表現したのがこの短歌だったんだ。
    素直にiPhone持ってますよ、といえばいいのに。
    これだから自意識過剰な人は……。
    ほんと、めんどくさい……。


    でも、考えてみれば、

    「自転車のサドルを高く上げるのが夏をむかえる準備のすべて」

    この歌も、一見かっこいいけど、
    作者がこう思って、「決まった……フッ」、
    なんて悦に入っているのを尻目に、
    彼のパートナーは、
    たんすにぐちゃぐちゃに入った彼の夏服の準備や、
    「行こう」と言ったっきり手付かずの帰省旅行の計画や、
    よく飲むくせに作者はつくらない麦茶のポットやティーバッグの準備など、
    すべての夏をむかえる準備を一手に引き受けて、
    てんてこまいなんじゃないか。
    穂村弘。やっぱり、めんどくさい……だけど好きだ。



    岡本雅哉(おかもと・まさや)
    東京都生まれ。2005年、枡野浩一の「かんたん短歌blog」をきっかけに作歌を始める。主に「かんたん短歌blog」、「笹短歌ドットコム」、「かとちえの短歌教室シリーズ」等に投稿。企画『“Perfume”で付け句!(2008〜)』、『ロクニン デ イッショ♪(2009〜)』。単語帳風短歌集『Schoolgirl Trips(2009)』。
    blog「なまじっか…」 http://furyu.way-nifty.com/namajikka/
    Twitter ID @masayaokamoto


    【第6回】他の4人を読む
    宇都宮敦――孤絶の希求が連帯の希求に重なる
    荻原裕幸――社会が社会の視点を取り戻した
    加藤治郎――日常の秩序が狂っていく
    松村正直――すこぶる現代的な、デジタル時代の歌

    「ゴニン デ イッシュ」とは
    | 第6回(逆) | 01:21 | - | - | - | - |